カリフォルニア州サンフランシスコで6月2日(米国時間)からスタートする米Appleの開発者会議「WWDC 2014」。初日にあたる2月午前10時(日本時間で3日午前2時)には同社CEOのTim Cook氏らによるキーノートが開催され、OS XやiOSの最新バージョンの紹介のほか、いくつか新発表が行われる。現時点で出ている情報や噂を基に、本稿では主にiPhoneを含むハードウェア関連の話をまとめてみる。
○次は「iPhone 6」? どのようなハードウェアになるのか
いきなり冒頭での結論になるが、前回のレポート「iPhone 6発表は? iOS 8はどうなる?- WWDC 2014での発表内容をまとめて予測」でも説明したように、WWDCは本来開発者のための情報交換の場であり、ハードウェアの新製品が発表されるような場面ではない。そのため、時期的に考えても「iPhone新製品」が発表される可能性は低く、仮にiPhoneを含むハードウェアがこの場で発表されても、あくまで「たまたま」だったと考えてほしい。
では、実際の発表まで時間があるとして、次期iPhoneはどのような姿になるだろうか。まずは過去のレポートを振り返ってみる。
・見た目や機能はどうなる? iPhone 6とiOS、iWatchに関する噂をまとめて分析
・iPhone 6の登場時期と価格、内蔵ハードウェアについて考察する
・Appleの次期iPhoneではサファイアクリスタルのディスプレイが採用される?
・やっぱり"iPhone 6"はひとまわり大きなサイズに? モックアップ画像が出回り話題に
・噂の"iPhone 6モックアップ"にカラーリングバリエーションが追加
・iPhone 6の4.7インチモデルは8月発表? - 台湾地元紙報じる
●噂ベースでのiPhone 6の特徴
大枠としての次期iPhoneに関するトレンドがつかめるのは、このあたりの情報だ。仮に次期製品の名称を「iPhone 6」として、主要部分を箇条書きしてみる。
・iPhone 6はディスプレイサイズが大型化する。サイズは4.7/5.5の2種類
・ディスプレイ部はガラス面強化のためサファイアクリスタルを採用(ハイエンドにあたる5.5インチモデルのみ採用……という話もあり)
・ディスプレイの大型化とは逆に、さらに本体は薄型に。ただし重量は増加傾向
・従来のシャーシはソリッドな角形デザインだったが、四隅は丸くなり、本体側面はカーブのついたエッジ強調型デザインになる
・電源ボタンの位置変更とボリュームボタン形状の変更
・価格はハイエンドモデルを中心に上昇傾向
・プロセッサには「A8」を採用。製造は台湾TSMCの可能性
・4.7インチモデルの8月発売の噂もあるが、実際には従来と同じ9月以降が有力
現在、「iPhone 6のプロトタイプ」をうたうモックアップやシャーシ、部品の一部がネット上に大量に出回っているが、そのほとんどは毎年恒例の「iPhone関連で出回っている噂を元に制作されたダミー」だと思われる。
一方で、もし新製品が9月発売であれば、プロトタイピングが一段落ついて実際に部品の大量生産がスタートする時期でもあり、そろそろ実際に「本物のリーク情報」が混ざってくる可能性も高くなる。形状に関しての情報はまだ当てにならないが、サイズが「4.7インチまたは5.5インチ」という大型化の話はかなり信頼性が高くなってきており、既存ユーザーも「大型化したiPhone」の存在を考慮しなければいけなくなってきたかもしれない。
●iPhone 6は本当に大型化するのか?
○大型化はトレンドだが……
筆者個人の感想でいうと、iPhoneを普段使いで持ち歩いている最大の理由が「ポケットに簡単に入るサイズで重量も軽い」からであって、昨今の5インチオーバーが当たり前になりつつあるスマートフォンでは貴重な存在だと考えているからだ。
個人的には、ほかにNexus 5(AT&T契約で国内外メイン回線)、Xperia Z1(SO-01F、NTTドコモ契約で日本国内でのデータ通信とおサイフケータイ担当)、Lumia 920(AT&T契約で米国でのサブ回線)の3つの端末を所有しているが、前2者は5インチ端末でありポケットからははみ出てしまい、Lumia 920にいたっては完全に重量オーバーで端末を入れたポケットが沈むほど。そうした理由もあり、「あえて1台のみを持ち出す」という場合はほぼソフトバンク契約の「iPhone 5」を選択していたりする(米国内の場合はNexus 5)。
筆者のように「いまのサイズだからiPhoneを選んでいる」という層には、4インチよりさらに大きい「4.7インチ」「5.5インチ」というサイズへの変更にはいささか疑問や抵抗を覚えてしまう。
だが、世間一般でみれば「小型だからいい」というニーズは必ずしも多数派ではないようで、「大きいことはいいことだ」という意見もあるようだ。昔は「女性の小さな手にもフィットするような小さいディスプレイサイズ」といったアイデアで開発された製品を多数見かけたが、昨今通勤電車を見ていると女性でも普通にGalaxy Noteのような大画面端末を使っている場面に出くわすことも多く、「画面が見やすくてタッチ領域も広い」端末に対する需要があるのだと実感する。
●香港と深センのディスプレイサイズのトレンド その1
先日取材で香港と深センの2つの都市を周遊する機会があったが、ここで非常に興味深いトレンドを見かけた。中国への返還前から生活水準や所得が高い香港に対し、中国でもトップクラスの高所得者の集まる街ではあるものの、香港に比べればまだまだ所得や物価は低い深セン。香港滞在中は5インチオーバーの最新のハイエンド端末を使う人々を多く見かけた一方で、深センではどちらかといえば画面サイズが若干小さく、端末も1~2世代前のものを使っている場面に多く遭遇している。
世代が古い端末を購入したほうが値段も安く、ディスプレイサイズも前の世代の端末であるために小さいことが多いためだ。つまり、所得水準とディスプレイサイズが、ある程度リンクしているようなのだ。
実際、深センで入手した中国移動通信(China Mobile)の端末セールの会場のビラでは、ディスプレイサイズで製品がカテゴリ分けされており、値段にも明確な差が出ている。もちろん、メーカーごとの細かい差異やスペックの差もあるが、「ディスプレイサイズ」「値段」「所得水準」には相関関係が存在している。
●香港と深センのディスプレイサイズのトレンド その2
もちろん、これより小さい4インチディスプレイのiPhoneを使うユーザーも見かける。今回の旅程では「iPhone 5s」を使うユーザーには遭遇しなかったが、「iPhone 5c」ユーザーは深セン地下鉄で何度か見かけた(しかも全員女性)。
カラーは赤で、旅に同行していただいた携帯研究家の山根康宏氏の分析によれば「中国で好まれるタイプの色で、おそらく色を基準に端末を選んでいる」ということで、ファッションアイテム的な使われ方をしているのかもしれない。
付記しておくと、現地のキャリアショップでiPhone 5sの展示を何度か見かけたが、ゴールドモデルのみ展示から除外されているのを見かけた。これは予想だが、中国ではゴールドモデルの人気が特に高く、盗難防止等の理由があるのだと考える。
従来まで、ディスプレイの小さな端末は製造コストの安さもあり「廉価版」ということが多く、「端末購入にお金をかけたくない」「予算があまりない」といった層に先進国・新興国問わずに人気があった。
日本では主要3キャリアからリリースされなかった「Xperia mini」などの端末は、この層にマッチしていたといえる。だが製品スペックが全体に向上し、比較的安価な端末でさえ大画面ディスプレイ搭載が可能なってきた現在、新興国での所得水準向上と合わせ、大画面端末の人気向上と需要増加が進んでいる。この傾向は特に中国で顕著にみられ、こうした需要のキャッチアップAppleのようなメーカーでも何らかの考慮が必要になるだろう。
●iPhone 6の解像度の噂
○ディスプレイが大型化したときの解像度はどうなる?
ディスプレイ大型化と並んで現在ホットなトピックの1つが「iPhoneが大画面ディスプレイを採用した際の解像度」だ。初代iPhoneでは480×320ピクセルという標準的な4:3の3.5インチディスプレイが採用されたが、これがiPhone 4の時代に2×2の4倍解像度の960×640というRetinaディスプレイとなり、iPhone 5では縦方向に解像度を伸ばした1136×640の4インチサイズとなった。1136:640≒16:9であり、iPhoneも5の世代で初めて16:9のワイド画面に移行したということになる。
仮にiPhone 6で4.7インチや5.5インチディスプレイが採用されたとすると、その解像度はどうなるのだろうか? 1つ示唆されているのが、Apple関係の予測ネタでよく名前の挙がるKGI SecuritiesのアナリストMing Chi-Kuo氏の「1334×750」「1920×1080」という数字だ。
同件を報じたMacRumorsによれば、4.7インチモデルが「1334×750」で326ppi、5.5インチモデルが「1920×1080」で401ppiだという。いずれもほぼ16:9であり、後者にいたってはフルHDそのものだ。5インチサイズでフルHDというのはNexus 5をはじめ、すでにメインストリームの端末でよく見かけるもので、このクラスの解像度の製品がiPhoneで採用されても不思議ではない。
一方で気になるのは、これら解像度の根拠だ。MacRumorsの記事ではこの解像度が採用された理由について触れられていないので不明だが、16:9というアスペクト比以外は既存の「1136×640」という解像度と比較しても中途半端で、開発者にとってはUIデザインの面でマイナスにしかならない。
●開発の立場から解像度を考える
完全にベクトルデータでアプリのUIがスケールできればいいのだが、実際にはドット依存の部分が依然として大きく、複数の異なる解像度のディスプレイを想定して開発者はアプリをデザインしなければならない。場合によってはディスプレイサイズごとに複数の画像アイコン等を用意せねばならず、デメリットにしかならないと筆者は考える。その意味では9 to 5 Macの出している「1704×960」という数字のほうが自然だ。
一見すると、ものすごく中途半端な「1704×960」という解像度だが、実は初代iPhoneの解像度のちょうど「3倍」サイズにあたる。初代は480×320ピクセルだが、これを3倍すると1440×960ピクセルとなる。「1704×960にはならないんじゃない?」と一瞬思うが、iPhone 5時代の16:9化で縦方向の解像度が増えており、Retina時で1136ピクセル、非Retinaと仮定すれば568ピクセルとなる。568×3=1704ピクセルとなり、つまり3倍ピクセルモードというわけだ。UI設計は従来のものを踏襲できるため、旧Retinaと比べて1.5倍の解像度にはなるものの、開発負担はこちらのほうが少ないだろう。
問題は、仮に3倍モードのほうが適切だとして、4.7インチモデルと5.5インチモデルの両方で同じ解像度を採用するのかという点だ。同じ解像度だとして、両モデルではppiが異なってくる。そのため、同じアプリであっても出力される画像やテキストのサイズは異なる。もし9 to 5 Macの提唱する「3倍モード」が採用されたとして、アプリ開発者は「端末によってiPhoneも表示される画像のサイズが異なる」ということを意識しなければならなくなる。
初代iPhoneからiPhone 5sまで、Retina化やアスペクト比変更という工程があっても、「旧アプリが表示する画像やテキストのサイズは一緒」だったからだ。サイズの大型化に合わせて利用シーンも変化してくるとみられ、9 to 5 Macの提示する「‘No man’s land’: How a bigger iPhone 6 will require developers to rethink their app designs」というのは、いま改めて検討するのになかなかいいテーマだと思う。
●iPhone 6でNFC採用なるか?
○次こそiPhoneはNFCを導入するのか?
iPhone 6関連ではほかにいくつかの話題があるが、最後に決済関係のテーマで締めたい。ディスプレイ関連ではiPhone 6向けのサプライヤとしてJDIとLGの2社が選ばれ、シャープとSamsungが外れたという話もあるが、この手の話題はライバル企業がわざとリークと称してネタを流して牽制するのが目的だったり、あるいは株価操作のポジショントークであったりと、なかなか真贋を判定しづらいということもあり、ここでは触れない。
決済関係でのホットな話題は、iPhone 6でAppleがついにNFCを採用するというものだ。9 to 5 Macによれば、Shanghai MobileのアナリストFrank Hill氏の「AppleとChina UnionPayが合意して決済サービスを中国ユーザー向けに提供する」という発言を紹介したもの。China UnionPayは日本では「銀聯カード」の名称で知られており、最近では観光地や都市部のショッピングセンターでも利用可能な店舗が増えて、同サービスのシールが貼られている光景を見かけることも多いと思う。
現金決済の信用度の問題や商取引のさらなる活性化という理由もあり、現在中国ではUnionPayのようなクレジットカードや電子マネー利用が急速に広まっている。UnionPayはさまざまな決済方式の研究に熱心であり、例えば非接触型カードのサービス展開であったり、中国移動通信(China Mobile)との提携でモバイルペイメントサービスへの本格参入を計画したりと、モバイルペイメント事情を世界的にウォッチしている筆者の目から見ても、最近の中国での展開スピードはかなり驚くべきものがある。
問題はこれが実際にiPhoneへのNFC導入に結びつくかどうかという点だが、筆者の意見でいえば「いますぐかといえばノーだが、将来的にはわからない」との考えだ。「AppleはBLEやiBeaconのほうに興味があり、NFCの代替とするつもり」という意見もあるが、これはそもそもiBeaconの性質を理解していない人の見解だ。
●NFC導入に関する推測
実質的にiBeaconそのものでは何もできないため(iBeaconのID識別と距離測定のみ)、これに決済やクーポン利用、ドアの解錠等に利用するには他の技術を組み合わせる必要がある。またApple自体がNFCに興味がないかといえばそうではなく、過去にはNFC導入に向けた具体的なアクションを起こしていた話は各方面で出てきており、以前に紹介したショッピング関連の通信特許にみられるように、さまざまな形でNFCに近い技術を組み合わせたサービスのアイデアを持っていることは確かだ。
ただ、現時点であえてNFCを導入する理由が薄く、優先順位が低いだけに過ぎないというのが筆者の見解だ。今年9月に発表されるであろう新iPhoneでNFCが搭載される可能性は低く、その1年後は搭載される可能性がそれよりは高くなるかもしれない……という程度だろう。
UnionPayはもともと2012年にSDカードをベースにしたNFCの非接触決済サービスを展開しており、2013年にはChina Mobileとの提携でTSM(Trusted Service Manager)経由のスマートフォンを使ったNFC決済サービスのテストを開始した。同社TSMに接続する提携銀行の数も増え、おそらく2014年中には本格的なサービスが都市部を中心にスタートするとみられる。
ただ、端末へのNFC搭載はChina Mobile等での取り扱い条件には含まれていないとみられるため、NFC対応の有無はApple側の判断によるだろう。もっとも現時点でUnionPayとAppleとの合意が成立したとして、今年9月のiPhoneのタイミングでは間に合わず、実際に中国を含む世界でのNFC関連サービスの普及状況をみて来年以降の導入を検討……というのが現実路線だと思われる。
●Appleが決済サービスに参入?
決済サービスに関しては、Apple自身が参入を計画しているという話もある。これは今年初旬にWall Street Journalが関係者の話として報じたものだが、Appleは最近になり決済関連の事業部を立ち上げて具体的な動きを見せているという。
一斉には、同社がiTunesサービスで抱える膨大なクレジットカード情報を使って決済代行を行うというものだ。それには「決済インフラのサードパーティへの開放」や「小売業者らとの利用提携」が必要となるが、後者に関しては具体的な動きがほとんど聞こえてこない。
前者のパターンで考えられる可能性としては、MasterCardのMasterPassやGoogle WalletのようにiPhoneやMac (PC)ユーザー向けに「ウォレット」と呼ばれる決済アプリを提供し、オンラインの販売事業者が決済画面で「Appleの決済サービス」にリンクされたボタンを設置して、それをクリックしたユーザーがAppleのサービスを介して決済を完了させるような仕組みだ。PayPalの支払い画面を想像してみるとわかりやすい。いずれにせよ、これがNFCを組み合わせた決済サービスになるには、もう何段階かのステップが必要になるだろう。
iPhone+NFCに関してもう1つだけ紹介しておけば、Appleが本体側面に2つのアンテナユニットを搭載することでNFCの通信機構を実現する特許を申請中という話がある。さらにはロボットアームを使ったNFC端末のフィールドテスト特許を申請しているという話もあり、NFC採用に向けた動きに一定の説得力を与えている。
とはいえ、これがすぐにNFC採用に結びつくわけでもなく、新しいアンテナ形状はさらなる追加の検証テストを要求する。全体にコンサバティブな予想ではあるが、NFCまわりはApple 1社の対応だけでどうにかなるものでもなく、関連パートナーの協力があってインフラとして機能するわけで、Appleといえども幅広いフィールドテストなしでいきなりサービスをスタートすることはできないというのが筆者の意見だ。
○次は「iPhone 6」? どのようなハードウェアになるのか
いきなり冒頭での結論になるが、前回のレポート「iPhone 6発表は? iOS 8はどうなる?- WWDC 2014での発表内容をまとめて予測」でも説明したように、WWDCは本来開発者のための情報交換の場であり、ハードウェアの新製品が発表されるような場面ではない。そのため、時期的に考えても「iPhone新製品」が発表される可能性は低く、仮にiPhoneを含むハードウェアがこの場で発表されても、あくまで「たまたま」だったと考えてほしい。
では、実際の発表まで時間があるとして、次期iPhoneはどのような姿になるだろうか。まずは過去のレポートを振り返ってみる。
・見た目や機能はどうなる? iPhone 6とiOS、iWatchに関する噂をまとめて分析
・iPhone 6の登場時期と価格、内蔵ハードウェアについて考察する
・Appleの次期iPhoneではサファイアクリスタルのディスプレイが採用される?
・やっぱり"iPhone 6"はひとまわり大きなサイズに? モックアップ画像が出回り話題に
・噂の"iPhone 6モックアップ"にカラーリングバリエーションが追加
・iPhone 6の4.7インチモデルは8月発表? - 台湾地元紙報じる
●噂ベースでのiPhone 6の特徴
大枠としての次期iPhoneに関するトレンドがつかめるのは、このあたりの情報だ。仮に次期製品の名称を「iPhone 6」として、主要部分を箇条書きしてみる。
・iPhone 6はディスプレイサイズが大型化する。サイズは4.7/5.5の2種類
・ディスプレイ部はガラス面強化のためサファイアクリスタルを採用(ハイエンドにあたる5.5インチモデルのみ採用……という話もあり)
・ディスプレイの大型化とは逆に、さらに本体は薄型に。ただし重量は増加傾向
・従来のシャーシはソリッドな角形デザインだったが、四隅は丸くなり、本体側面はカーブのついたエッジ強調型デザインになる
・電源ボタンの位置変更とボリュームボタン形状の変更
・価格はハイエンドモデルを中心に上昇傾向
・プロセッサには「A8」を採用。製造は台湾TSMCの可能性
・4.7インチモデルの8月発売の噂もあるが、実際には従来と同じ9月以降が有力
現在、「iPhone 6のプロトタイプ」をうたうモックアップやシャーシ、部品の一部がネット上に大量に出回っているが、そのほとんどは毎年恒例の「iPhone関連で出回っている噂を元に制作されたダミー」だと思われる。
一方で、もし新製品が9月発売であれば、プロトタイピングが一段落ついて実際に部品の大量生産がスタートする時期でもあり、そろそろ実際に「本物のリーク情報」が混ざってくる可能性も高くなる。形状に関しての情報はまだ当てにならないが、サイズが「4.7インチまたは5.5インチ」という大型化の話はかなり信頼性が高くなってきており、既存ユーザーも「大型化したiPhone」の存在を考慮しなければいけなくなってきたかもしれない。
●iPhone 6は本当に大型化するのか?
○大型化はトレンドだが……
筆者個人の感想でいうと、iPhoneを普段使いで持ち歩いている最大の理由が「ポケットに簡単に入るサイズで重量も軽い」からであって、昨今の5インチオーバーが当たり前になりつつあるスマートフォンでは貴重な存在だと考えているからだ。
個人的には、ほかにNexus 5(AT&T契約で国内外メイン回線)、Xperia Z1(SO-01F、NTTドコモ契約で日本国内でのデータ通信とおサイフケータイ担当)、Lumia 920(AT&T契約で米国でのサブ回線)の3つの端末を所有しているが、前2者は5インチ端末でありポケットからははみ出てしまい、Lumia 920にいたっては完全に重量オーバーで端末を入れたポケットが沈むほど。そうした理由もあり、「あえて1台のみを持ち出す」という場合はほぼソフトバンク契約の「iPhone 5」を選択していたりする(米国内の場合はNexus 5)。
筆者のように「いまのサイズだからiPhoneを選んでいる」という層には、4インチよりさらに大きい「4.7インチ」「5.5インチ」というサイズへの変更にはいささか疑問や抵抗を覚えてしまう。
だが、世間一般でみれば「小型だからいい」というニーズは必ずしも多数派ではないようで、「大きいことはいいことだ」という意見もあるようだ。昔は「女性の小さな手にもフィットするような小さいディスプレイサイズ」といったアイデアで開発された製品を多数見かけたが、昨今通勤電車を見ていると女性でも普通にGalaxy Noteのような大画面端末を使っている場面に出くわすことも多く、「画面が見やすくてタッチ領域も広い」端末に対する需要があるのだと実感する。
●香港と深センのディスプレイサイズのトレンド その1
先日取材で香港と深センの2つの都市を周遊する機会があったが、ここで非常に興味深いトレンドを見かけた。中国への返還前から生活水準や所得が高い香港に対し、中国でもトップクラスの高所得者の集まる街ではあるものの、香港に比べればまだまだ所得や物価は低い深セン。香港滞在中は5インチオーバーの最新のハイエンド端末を使う人々を多く見かけた一方で、深センではどちらかといえば画面サイズが若干小さく、端末も1~2世代前のものを使っている場面に多く遭遇している。
世代が古い端末を購入したほうが値段も安く、ディスプレイサイズも前の世代の端末であるために小さいことが多いためだ。つまり、所得水準とディスプレイサイズが、ある程度リンクしているようなのだ。
実際、深センで入手した中国移動通信(China Mobile)の端末セールの会場のビラでは、ディスプレイサイズで製品がカテゴリ分けされており、値段にも明確な差が出ている。もちろん、メーカーごとの細かい差異やスペックの差もあるが、「ディスプレイサイズ」「値段」「所得水準」には相関関係が存在している。
●香港と深センのディスプレイサイズのトレンド その2
もちろん、これより小さい4インチディスプレイのiPhoneを使うユーザーも見かける。今回の旅程では「iPhone 5s」を使うユーザーには遭遇しなかったが、「iPhone 5c」ユーザーは深セン地下鉄で何度か見かけた(しかも全員女性)。
カラーは赤で、旅に同行していただいた携帯研究家の山根康宏氏の分析によれば「中国で好まれるタイプの色で、おそらく色を基準に端末を選んでいる」ということで、ファッションアイテム的な使われ方をしているのかもしれない。
付記しておくと、現地のキャリアショップでiPhone 5sの展示を何度か見かけたが、ゴールドモデルのみ展示から除外されているのを見かけた。これは予想だが、中国ではゴールドモデルの人気が特に高く、盗難防止等の理由があるのだと考える。
従来まで、ディスプレイの小さな端末は製造コストの安さもあり「廉価版」ということが多く、「端末購入にお金をかけたくない」「予算があまりない」といった層に先進国・新興国問わずに人気があった。
日本では主要3キャリアからリリースされなかった「Xperia mini」などの端末は、この層にマッチしていたといえる。だが製品スペックが全体に向上し、比較的安価な端末でさえ大画面ディスプレイ搭載が可能なってきた現在、新興国での所得水準向上と合わせ、大画面端末の人気向上と需要増加が進んでいる。この傾向は特に中国で顕著にみられ、こうした需要のキャッチアップAppleのようなメーカーでも何らかの考慮が必要になるだろう。
●iPhone 6の解像度の噂
○ディスプレイが大型化したときの解像度はどうなる?
ディスプレイ大型化と並んで現在ホットなトピックの1つが「iPhoneが大画面ディスプレイを採用した際の解像度」だ。初代iPhoneでは480×320ピクセルという標準的な4:3の3.5インチディスプレイが採用されたが、これがiPhone 4の時代に2×2の4倍解像度の960×640というRetinaディスプレイとなり、iPhone 5では縦方向に解像度を伸ばした1136×640の4インチサイズとなった。1136:640≒16:9であり、iPhoneも5の世代で初めて16:9のワイド画面に移行したということになる。
仮にiPhone 6で4.7インチや5.5インチディスプレイが採用されたとすると、その解像度はどうなるのだろうか? 1つ示唆されているのが、Apple関係の予測ネタでよく名前の挙がるKGI SecuritiesのアナリストMing Chi-Kuo氏の「1334×750」「1920×1080」という数字だ。
同件を報じたMacRumorsによれば、4.7インチモデルが「1334×750」で326ppi、5.5インチモデルが「1920×1080」で401ppiだという。いずれもほぼ16:9であり、後者にいたってはフルHDそのものだ。5インチサイズでフルHDというのはNexus 5をはじめ、すでにメインストリームの端末でよく見かけるもので、このクラスの解像度の製品がiPhoneで採用されても不思議ではない。
一方で気になるのは、これら解像度の根拠だ。MacRumorsの記事ではこの解像度が採用された理由について触れられていないので不明だが、16:9というアスペクト比以外は既存の「1136×640」という解像度と比較しても中途半端で、開発者にとってはUIデザインの面でマイナスにしかならない。
●開発の立場から解像度を考える
完全にベクトルデータでアプリのUIがスケールできればいいのだが、実際にはドット依存の部分が依然として大きく、複数の異なる解像度のディスプレイを想定して開発者はアプリをデザインしなければならない。場合によってはディスプレイサイズごとに複数の画像アイコン等を用意せねばならず、デメリットにしかならないと筆者は考える。その意味では9 to 5 Macの出している「1704×960」という数字のほうが自然だ。
一見すると、ものすごく中途半端な「1704×960」という解像度だが、実は初代iPhoneの解像度のちょうど「3倍」サイズにあたる。初代は480×320ピクセルだが、これを3倍すると1440×960ピクセルとなる。「1704×960にはならないんじゃない?」と一瞬思うが、iPhone 5時代の16:9化で縦方向の解像度が増えており、Retina時で1136ピクセル、非Retinaと仮定すれば568ピクセルとなる。568×3=1704ピクセルとなり、つまり3倍ピクセルモードというわけだ。UI設計は従来のものを踏襲できるため、旧Retinaと比べて1.5倍の解像度にはなるものの、開発負担はこちらのほうが少ないだろう。
問題は、仮に3倍モードのほうが適切だとして、4.7インチモデルと5.5インチモデルの両方で同じ解像度を採用するのかという点だ。同じ解像度だとして、両モデルではppiが異なってくる。そのため、同じアプリであっても出力される画像やテキストのサイズは異なる。もし9 to 5 Macの提唱する「3倍モード」が採用されたとして、アプリ開発者は「端末によってiPhoneも表示される画像のサイズが異なる」ということを意識しなければならなくなる。
初代iPhoneからiPhone 5sまで、Retina化やアスペクト比変更という工程があっても、「旧アプリが表示する画像やテキストのサイズは一緒」だったからだ。サイズの大型化に合わせて利用シーンも変化してくるとみられ、9 to 5 Macの提示する「‘No man’s land’: How a bigger iPhone 6 will require developers to rethink their app designs」というのは、いま改めて検討するのになかなかいいテーマだと思う。
●iPhone 6でNFC採用なるか?
○次こそiPhoneはNFCを導入するのか?
iPhone 6関連ではほかにいくつかの話題があるが、最後に決済関係のテーマで締めたい。ディスプレイ関連ではiPhone 6向けのサプライヤとしてJDIとLGの2社が選ばれ、シャープとSamsungが外れたという話もあるが、この手の話題はライバル企業がわざとリークと称してネタを流して牽制するのが目的だったり、あるいは株価操作のポジショントークであったりと、なかなか真贋を判定しづらいということもあり、ここでは触れない。
決済関係でのホットな話題は、iPhone 6でAppleがついにNFCを採用するというものだ。9 to 5 Macによれば、Shanghai MobileのアナリストFrank Hill氏の「AppleとChina UnionPayが合意して決済サービスを中国ユーザー向けに提供する」という発言を紹介したもの。China UnionPayは日本では「銀聯カード」の名称で知られており、最近では観光地や都市部のショッピングセンターでも利用可能な店舗が増えて、同サービスのシールが貼られている光景を見かけることも多いと思う。
現金決済の信用度の問題や商取引のさらなる活性化という理由もあり、現在中国ではUnionPayのようなクレジットカードや電子マネー利用が急速に広まっている。UnionPayはさまざまな決済方式の研究に熱心であり、例えば非接触型カードのサービス展開であったり、中国移動通信(China Mobile)との提携でモバイルペイメントサービスへの本格参入を計画したりと、モバイルペイメント事情を世界的にウォッチしている筆者の目から見ても、最近の中国での展開スピードはかなり驚くべきものがある。
問題はこれが実際にiPhoneへのNFC導入に結びつくかどうかという点だが、筆者の意見でいえば「いますぐかといえばノーだが、将来的にはわからない」との考えだ。「AppleはBLEやiBeaconのほうに興味があり、NFCの代替とするつもり」という意見もあるが、これはそもそもiBeaconの性質を理解していない人の見解だ。
●NFC導入に関する推測
実質的にiBeaconそのものでは何もできないため(iBeaconのID識別と距離測定のみ)、これに決済やクーポン利用、ドアの解錠等に利用するには他の技術を組み合わせる必要がある。またApple自体がNFCに興味がないかといえばそうではなく、過去にはNFC導入に向けた具体的なアクションを起こしていた話は各方面で出てきており、以前に紹介したショッピング関連の通信特許にみられるように、さまざまな形でNFCに近い技術を組み合わせたサービスのアイデアを持っていることは確かだ。
ただ、現時点であえてNFCを導入する理由が薄く、優先順位が低いだけに過ぎないというのが筆者の見解だ。今年9月に発表されるであろう新iPhoneでNFCが搭載される可能性は低く、その1年後は搭載される可能性がそれよりは高くなるかもしれない……という程度だろう。
UnionPayはもともと2012年にSDカードをベースにしたNFCの非接触決済サービスを展開しており、2013年にはChina Mobileとの提携でTSM(Trusted Service Manager)経由のスマートフォンを使ったNFC決済サービスのテストを開始した。同社TSMに接続する提携銀行の数も増え、おそらく2014年中には本格的なサービスが都市部を中心にスタートするとみられる。
ただ、端末へのNFC搭載はChina Mobile等での取り扱い条件には含まれていないとみられるため、NFC対応の有無はApple側の判断によるだろう。もっとも現時点でUnionPayとAppleとの合意が成立したとして、今年9月のiPhoneのタイミングでは間に合わず、実際に中国を含む世界でのNFC関連サービスの普及状況をみて来年以降の導入を検討……というのが現実路線だと思われる。
●Appleが決済サービスに参入?
決済サービスに関しては、Apple自身が参入を計画しているという話もある。これは今年初旬にWall Street Journalが関係者の話として報じたものだが、Appleは最近になり決済関連の事業部を立ち上げて具体的な動きを見せているという。
一斉には、同社がiTunesサービスで抱える膨大なクレジットカード情報を使って決済代行を行うというものだ。それには「決済インフラのサードパーティへの開放」や「小売業者らとの利用提携」が必要となるが、後者に関しては具体的な動きがほとんど聞こえてこない。
前者のパターンで考えられる可能性としては、MasterCardのMasterPassやGoogle WalletのようにiPhoneやMac (PC)ユーザー向けに「ウォレット」と呼ばれる決済アプリを提供し、オンラインの販売事業者が決済画面で「Appleの決済サービス」にリンクされたボタンを設置して、それをクリックしたユーザーがAppleのサービスを介して決済を完了させるような仕組みだ。PayPalの支払い画面を想像してみるとわかりやすい。いずれにせよ、これがNFCを組み合わせた決済サービスになるには、もう何段階かのステップが必要になるだろう。
iPhone+NFCに関してもう1つだけ紹介しておけば、Appleが本体側面に2つのアンテナユニットを搭載することでNFCの通信機構を実現する特許を申請中という話がある。さらにはロボットアームを使ったNFC端末のフィールドテスト特許を申請しているという話もあり、NFC採用に向けた動きに一定の説得力を与えている。
とはいえ、これがすぐにNFC採用に結びつくわけでもなく、新しいアンテナ形状はさらなる追加の検証テストを要求する。全体にコンサバティブな予想ではあるが、NFCまわりはApple 1社の対応だけでどうにかなるものでもなく、関連パートナーの協力があってインフラとして機能するわけで、Appleといえども幅広いフィールドテストなしでいきなりサービスをスタートすることはできないというのが筆者の意見だ。
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