2014/10/21

iPhone売れるほど…貿易赤字懸念



9月19日に発売された米アップルの新型スマートフォン「iPhone(アイフォーン)6」と「6プラス」の販売動向に政府関係者が神経をとがらせている。輸入品のアイフォーンは貿易赤字の拡大に直結し、安倍晋三首相が消費税率を10%に引き上げる判断材料にする7~9月期の国内総生産(GDP)成長率への影響が避けられないからだ。8月まで貿易収支が26カ月連続で赤字となる中、国内のスマホ需要を牽引(けんいん)するアイフォーンの人気は、アベノミクスのシナリオをも左右しかねない波乱要因になる可能性がある。

 新型アイフォーンの発売初日、「アップルストア表参道」(東京都渋谷区)ではファンが午前8時の開店とともに一斉に店内に入り、店員とハイタッチを繰り返した。都内在住の30代の男性会社員は「電池持ちが良くなったと聞いて、買うのを決めた」と満足げだった。

 だが、新型モデルが投入されるたびに繰り返されるお祭り騒ぎに、政府関係者は冷徹な視線を投げかける。「アイフォーンが売れれば売れるほど貿易赤字が膨らみかねない」ためだ。

 財務省によると、日本の貿易収支は2012年7月から赤字が続く。東京電力福島第1原子力発電所の事故に伴って全国の原発が長期停止を余儀なくされ、原油や液化天然ガス(LNG)など火力発電用の燃料輸入が急増した上、アベノミクスによる円安傾向が輸入価格の上昇につながった。一方、円安で改善が見込まれた輸出は国内の製造業が生産拠点の海外移転を加速させた影響で伸び悩みが続く。

 ただ近年、貿易収支の主役として9月だけはアイフォーンが存在感を放つ。新型モデルへの切り替えでアイフォーンを生産する中国からの輸入が急増するためだ。中国からのスマホを含む通信機の輸入は「5」が発売された12年9月は前年同月比で2.5倍以上も増え、「5s」と「5c」が発売された13年9月も90.8%増となった。この通信機の輸入増が9月の貿易赤字を拡大させる要因となった。

 政府関係者が今年のお祭り騒ぎに神経質になるのは、影響が貿易収支だけにとどまらない恐れがあるためだ。9月の貿易赤字が大きくなれば、消費税率を来年10月に10%に引き上げるかどうかの判断にも関わってくる可能性が否定できない。

 10%への再引き上げは法律で「経済状況の好転」が条件とされている。安倍首相は12月初旬までの経済指標などを踏まえて最終判断するとしており、中でも7~9月期のGDP成長率が判断の軸になるとみられる。GDPの構成要素の一つである「外需」は貿易収支が悪化すれば小さくなるため、結果的に「アイフォーンの輸入が増えるほどGDPが押し下げられる」(大手証券のエコノミスト)。

 アップルによると、新型モデルの販売台数は発売から3日間で過去最高の1000万台超となった。「買い控えとみられる動き」(財務省)から、8月の貿易統計では中国からの通信機輸入が33.1%減と落ち込んでおり、日本でも9月は販売台数を大きく伸ばしたとみられる。

 財務省が今月8日に発表した9月上中旬の貿易収支は7682億円の赤字で、自動車などの輸出が伸びたことから、上中旬ベースでは赤字幅が2カ月ぶりに縮小した。ただ、新型アイフォーンの輸入が本格的に反映されるのは9月下旬分のため、エコノミストらは「9月は貿易赤字が拡大する可能性が高い」と予想する。9月の貿易統計は22日に公表される。

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