2014/10/15

【産経新聞】ジリ貧「サムスン」巨額半導体投資に市場は疑心暗鬼…強気“逆張り投資”の先は天国か地獄か[10/10]

韓国サムスン電子の地盤沈下が止まらない。7日発表した2014年7~9月期の連結決算は、本業のもうけを示す営業利益が前年同期に比べて6割も下回り、これまで業績を牽引(けんいん)してきたスマートフォンの失速を鮮明にした。巻き返しに向け、かつての稼ぎ頭の半導体を再び柱にしようと、15兆6000億ウォン(約1兆6000億円)もの巨費を投じる新工場計画を6日に発表したが、市場からは早くも供給過剰の懸念が噴出。

さらに「決算前に市場の不安感を取り除きたかっただけ。額面通りやるかはわからない」(業界関係者)との見方さえ広がる。

韓国の有力紙、中央日報(電子版)は「天文学的な規模の投資計画を出したが、実際のところサムスン電子のムードはこれまでになかったほど暗い」と報じた。業績を反転させられるカードを見つけられない巨大グローバル企業、サムスン電子。

市場からは「サムスンの全盛期は終わった」との声も出始めた。

スマホの利益 劇的に減少

7~9月期の連結営業利益は、4兆1000億ウォンと過去最高だった前年同期に比べて6割減。前年実績を下回るのは4四半期連続だ。13年の営業利益の約7割を占めていたスマホの競争力が急速に低下したことが大きい。

中央日報(電子版)によると、スマホを担当するITモバイル部門の営業利益は1兆ウォン台後半と推定され、6兆4300億ウォンを記録した1~3月期と比較すると3分の1に落ち込んだ。特定の製品の利益がこれだけ短期間に劇的に減少したケースは世界でも珍しいという。

中国勢の中低価格スマホが急浮上している上に、プレミアム製品のライバルである米アップルが「iPhone6」を出しサムスンの市場を奪ったことが決定打になった。

市場では「早くもスマホは成熟期を迎えている」との見方も多い。サムスンのスマホ不振は一時的ではなく、構造的な問題をはらんでいる。

そこで、サムスンが柱に据えようとしているのがかつての稼ぎ頭の半導体だ。ただ、ある電機アナリストは、サムスンが6日に発表した半導体の巨額投資について「こういう発表は聞いたことがない。強い違和感を覚える」と話す。

生産品目不明の“怪”

新工場は投資額は15兆6000億ウォン(約1兆6000億円)と、同社の一つの半導体工場への投資額としては過去最高となる。2015年前半に着工し、17年後半の稼働開始とスケジュールも決定済みだ。にもかかわらず、生産品目を明らかにしていないのだ。

サムソンは半導体メモリーのDRAM、NAND型フラッシュメモリーで世界最大手。さらに半導体ロジックのシステムLSIも手掛けており、この3製品から生産品目を選ぶことになる。

ただ、市場は敏感に反応した。発表後、DRAMとNAND型フラッシュの両方を手掛ける米マイクロン・テクノロジー、NAND型フラッシュを手掛ける東芝、米サンディスクの株価は軒並み急落。前出の電機アナリストは「供給過剰懸念が出た格好。市場はオーバーキャパシティになることを心配している」と語る。


もっとも今回の巨額投資に対し、市場は疑心暗鬼の部分もある。厳しい数字が出ることが確実の決算の前日に発表し、しかも生産品目は不明。「操業を始める3年後の製品トレンドがどうなっているか誰も見通せない」(前出の電機アナリスト)中、ただ1兆6000億円の巨大工場をつくるというアナウンスは、現実味に欠ける。

シナリオ通りに半導体の巨額投資に踏み切ったとしても難題は待ち構える。かつてサムスンは、日本企業が投資を抑制した時期にも、勝負とみると「逆張り投資」を実施し、日本企業を淘汰(とうた)しながら半導体事業を拡大してきた。ただ、半導体は年を追うごとに投資規模が増えていく装置産業で、値動きも大きい。プレーヤーが減る中、投資のタイミングを誤ると、受ける反動は以前にも増して強い。

そして今回の新工場は、必ずしもサムスンの思惑ばかりではないようだ。新工場はソウル近郊の京畿道平沢(ピョンテク)に建設する計画だが、韓国政府と地元自治体が電力や水道など事業基盤整備を支援する。韓国経済の成長に向け、国を挙げて支援する表れともいえるが、電機業界関係者は「政府の関与で新工場の稼働が1年早い17年になった」と指摘する。

政府の関与が足かせ?

サムスンがくしゃみをすれば韓国経済は風邪をひく-。こう評されるほど、サムソンの韓国経済に対する影響度は大きい。売上高は韓国GDP(国内総生産)のおよそ2割弱を占め、関連企業を含めると雇用も膨大だ。

韓国の有力紙、朝鮮日報(電子版)は8日付の社説で「(サムスン以外の)韓国の他の大手企業も今年に入って業績が悪化し続けている」とした上で、「韓国を代表する大企業各社の実績が悪化すれば、中小の協力会社も追い詰められ、景気回復が徐々に困難になるだろう。税収が減少し、政府の財政が大きな打撃を受ける」と報じた。

政府がサムスンの半導体事業を盛り上げることで、国内の景気回復を狙った可能性がある。ただ、電機業界関係者は「政府の関与のせいで、サムスン得意の『逆張り投資』のタイミングが狂う恐れも否定できない」と話す。

韓国経済を背負うサムスン。次の一手を見つけられないジレンマを抱えているように見えてならない。

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