2010/07/25

乙女心が身にしみる「98歳の処女詩集」…柴田トヨ著「くじけないで」


 栃木県宇都宮市でひとり暮らしをしながら詩作をする柴田トヨさんが、御年98歳にして「処女詩集」を出版した。自費出版を経て新装刊行された「くじけないで」(飛鳥新社、1000円)に収められた42編の詩は、みずみずしい感性があふれるものばかり。明治から大正、昭和、平成を生き、92歳で詩を作り始めた異色の在野詩人は、ひとり息子の健一さん(65)と支え合いながら、トヨさんにしか書けない言葉をつむぎ続ける。
 98歳の処女詩集。「こう(本に)なると思わなかったので、うれしかったです」。トヨさんは目を輝かせて話した。少し口紅をさし薄化粧した表情には、年齢をあまり感じさせない“張り”がある。「でもね、近所の人は(出版を)知らないんですよ」。もちろん、この年齢で、世に出たくて書き始めたわけではない。きっかけは「せがれ」の勧めだった。
 92歳の頃、文芸同人活動をしていた健一さんに詩を書くことを勧められた。腰を痛め、趣味の日本舞踊をあきらめたトヨさんが気落ちするのを見かねて。健一さんにすればボケ防止も兼ねた軽い気持ちからだったが、驚いたことに、トヨさんはすぐ何編か文章を出してきた。現在の詩の原型を書き留めていたのだ。「私も文章を書くので、母のDNAだったのかと思った」(健一さん)。2人で協力し、詩にして新聞に投稿。いつしか、人気投稿者となった。
 明治から4つの年号を生き、息子を育て上げたトヨさんの詩には“希望”“女性らしさ”“ユーモア”といったイメージが漂う。
 ―九十八歳でも 恋はするのよ 夢だってみるの 雲にだって乗りたいわ―
 以前、お世話になった40代のイケメン医師“ウエノ先生”のことを、うれし恥ずかしそうに話す表情は、乙女そのものだ。
 ヘルパーにも助けられ、ひとり暮らし歴約20年。「ひとりだと、人間は強くなりますよ」
 ―私をおばあちゃんと呼ばないで 「今日は何曜日?」「9+9は幾つ?」そんなバカな質問もしないでほしい― 
 気概にあふれる言葉。「前は死ぬことばかり言ってたけど、詩をやり出してから言わなくなりました」(健一さん)。6月で99歳になる人生経験は、ダテじゃない。強さと優しさが、詩からにじみ出ている。
 「詩集を出してよかったのは、いろんな人から“ありがとう。元気づけられた”とか、感謝の手紙をもらうこと。自分たちの方も励まされるんです」(健一さん)。トヨさんは取材の最後に、自分の詩集で一番好きだという「思い出2」を朗読してくれた。健一さんと亡き夫との日々を振り返った詩。早すぎず、遅すぎず、柔らかい口調でしっかり読まれる言葉は、胸にしみるよう。あらためて、トヨさんにお礼を言いたくなる方々の気持ちが、よく分かった。
 ◆柴田 トヨ(しばた・とよ)1911(明治44)年6月26日、栃木市生まれ。98歳。10代で奉公に出て、20歳でお見合い結婚をするも、短期間で離婚。33歳で、調理師だった曳吉さんと結婚、翌年、健一さんを出産。夫とは92年に死別し、以来20年近く宇都宮市でひとり暮らし。夢は、同郷の作曲家・船村徹さんに詩集を読んでもらうこと。

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