5月15日の新商品発表会で、NTTドコモの加藤薫社長は、そう強調しながら右手で「2」を作った。まるで「ビクトリー (勝利)」のVサインのように。
スマートフォンの普及が進み、購入ユーザー層がこれまでのハイエンド層から一般ユーザー層に変化する中、最大手のNTTドコモが打ち出した販売戦略により国内スマートフォン市場に波紋が広がっている。ドコモのツートップ戦略とは何か。そして、どのような影響を及ぼすのだろうか。
●大量調達と重点的な広告宣伝で、売りやすい環境を構築
既報のとおり、NTTドコモがこの夏商戦に投入した「ツートップ戦略」は、同社の端末販売戦略を抜本から変えるものだ。
ドコモはこれまでメーカー / モデルごとに大きな差を付けないことを良しとしてきた。“結果的に”その時々によってヒットモデルが生まれ、商戦期ごとにメーカーの勝ち組・負け組が分かれることはあっても、建前としてはすべてのメーカーを公平に扱い、商品ラインアップ全体が「護送船団」を組むように配慮した販売戦略をとってきたのだ。
しかし、今回は違う。ドコモがこの夏商戦に掲げた「ツートップ」の販売戦略では、特定メーカーの特定のモデルを優遇する方針に転換した。今期ツートップに選ばれたのは、ソニーモバイルコミュニケーションズ製の「Xperia A SO-04E」とサムスン電子製の「GALAXY S4 SC-04E」。両モデルは新商品発表会で加藤社長自らツートップと評して大々的にPRしたほか、この2機種だけに適用される様々な特別割引が設定される。ドコモを挙げて販売を後押しするのである。
端末の調達規模もケタ違いに大きい。日本の携帯電話 / スマートフォン業界では、通信キャリアがメーカーから端末を仕入れて(調達)、ユーザーに販売する方式が主流だ。この際にメーカーの業績を左右するのが、「キャリアがどれだけの調達を行うか」である。
複数の関係者によると、今回ツートップに選ばれたGALAXY S4 SC-04EとXperia A SO-04Eに対し、ドコモは100万台前後の調達を行う方針だ。少なくともツートップのうち1機種は、100万台以上の調達になる模様である。一般的には「100万台が売れれば大ヒット」の国内市場において、すでにこれだけの規模の調達が計画されているのは破格のことだ。しかも、年間を通じて最もスマートフォンが売れる春商戦ではなく、夏商戦のモデルでこれほど大規模な調達を行うのは異例である。
特別扱いは広告宣伝やマーケティング、販売の現場でも行われる。前出の加藤薫社長が「どのスマホを買うか決めかねているユーザーにおすすめできるのがこの2機種」と話すとおり、ドコモは大量調達したこの2機種を大々的にプロモーションし、イチオシ製品としてユーザーに勧める。販売価格も安く設定しているため、店頭でも「薦めやすく、売りやすい環境が整っている」のだ。
●ツートップは「最良の選択」か?
「ツートップとして大々的に宣伝されたため、GALAXY、Xperiaのどちらも認知度が上がった感じですね。どちらも『指名買い』が以前よりも増えました。あまりスマートフォンに詳しくないお客様の場合ですと、『ツートップ(GALAXYとXperia)のどちらがお奨めか』というように質問されます」(大手家電量販店 幹部)
鳴り物入りで始まったドコモのツートップ戦略だが、Xperia AとGALAXY S4が出そろった5月最終週の滑り出しは上々。各販売店の声を聞いても、"手応え"はあるようだ。
しかし、その一方で、ツートップ戦略への危惧があるのもまた事実だ。一部の販売店からは「(ツートップとなった)GALAXYとXperiaの初動はいいが、他メーカーの夏モデルの引き合いはむしろ減っている。総需要そのものは変わらず、単に売れ筋が偏るだけで終わるのではないか」という声も聞こえてくる。
さらに今回ツートップとして選ばれた2機種が、本当に今の市場環境やユーザーニーズに合致しているか、という課題もある。
現在、スマートフォンの主な購入者層は「携帯電話からスマートフォンに初めて買い換える一般層」に移ってきている。グローバルなハイエンドモデルよりも、日本のケータイユーザーのニーズをうまく取り入れた"ケータイっぽいスマートフォン"が求められているのだ。そう考えて今夏のラインアップを見渡すと、ツートップとなったSONYのXperia Aに加えて、シャープの「AQUOS Phone Zeta SH-06E」やパナソニック モバイルの「ELUGA P P-03E」も魅力的で今の市場環境に合致している。とりわけAQUOS Phone Zeta は低消費電力・高解像度のIGZO液晶搭載に加えて、端子部分をフタで覆わなくても防水性能を実現するキャップレス防水に対応。製品としての出来栄えは、GALAXY S4やXperia Aよりも日本のケータイユーザーのニーズに合致した優れたスマートフォンとなっている。しかし、同機は「ツートップに選ばれなかった」という一点で、販売現場では不利な扱いをされてしまうのだ。これはもったいないことだと、筆者は思う。
●ドコモの「ツートップ戦略」は、iPhone導入の下地にもなりうる
ドコモは今回のツートップを販売戦略の大きな転機と位置づけており、MNPによる顧客流出を止めるための切り札としている。とりわけドコモの顧客流出の原因になっている“iPhone 5対抗”という意味合いが強い。最初のツートップに、グローバル市場でのAppleのライバルであるサムスンと、国内市場ではAppleに比肩するブランド力を持つソニーを持ってきたのもそのためだろう。ツートップ戦略が、まずはiPhone 5に対抗するための措置であることは間違いない。
その一方で、今回のツートップ戦略は、ドコモがiPhoneを受け入れるための下地にもなる。
Appleは、iPhoneの取り扱いキャリアに対して、「iPhoneを他社製スマートフォンよりも優遇して販売すること」を前提条件としていることで知られる。Appleのブランド力を最大化するために、あらゆる場面で“特別扱い”を求めているのだ。
これまでのドコモであれば、すべてのメーカーを公平に扱うことが建前だったため、この「iPhoneを優遇すること」は受け入れにくい条件であった。だが、今回のツートップ戦略で、ドコモが推すメーカー / モデルは、大手を振って広告宣伝から販売価格まで特別扱いで優遇することができるようになった。そのため近い将来、ドコモがiPhoneを導入することになった時に、今回のツートップ戦略を前例にしてAppleを優遇することが可能になったという見方もできるのだ。
ドコモがiPhoneをいつ取り扱うのか。
その正確な時期は分からない。しかし今回のツートップ戦略の導入を始め、ドコモがiPhoneを取り扱うためのハードルは、次第に低くなってきている。他方でApple側にとっても、ドコモの持つシェアの価値が相対的に上がってきているのは確かだ。2年以内に「その日」が来る可能性は、これまでよりも飛躍的に高まっていると予想している。
月々サポートの割引を最大限受けるためには、24カ月間、同一の機種を使い続ける必要がある。ドコモ版iPhoneを待っているユーザーにとっては、悩ましい状況になってきていると言えそうだ。
スマートフォンの普及が進み、購入ユーザー層がこれまでのハイエンド層から一般ユーザー層に変化する中、最大手のNTTドコモが打ち出した販売戦略により国内スマートフォン市場に波紋が広がっている。ドコモのツートップ戦略とは何か。そして、どのような影響を及ぼすのだろうか。
●大量調達と重点的な広告宣伝で、売りやすい環境を構築
既報のとおり、NTTドコモがこの夏商戦に投入した「ツートップ戦略」は、同社の端末販売戦略を抜本から変えるものだ。
ドコモはこれまでメーカー / モデルごとに大きな差を付けないことを良しとしてきた。“結果的に”その時々によってヒットモデルが生まれ、商戦期ごとにメーカーの勝ち組・負け組が分かれることはあっても、建前としてはすべてのメーカーを公平に扱い、商品ラインアップ全体が「護送船団」を組むように配慮した販売戦略をとってきたのだ。
しかし、今回は違う。ドコモがこの夏商戦に掲げた「ツートップ」の販売戦略では、特定メーカーの特定のモデルを優遇する方針に転換した。今期ツートップに選ばれたのは、ソニーモバイルコミュニケーションズ製の「Xperia A SO-04E」とサムスン電子製の「GALAXY S4 SC-04E」。両モデルは新商品発表会で加藤社長自らツートップと評して大々的にPRしたほか、この2機種だけに適用される様々な特別割引が設定される。ドコモを挙げて販売を後押しするのである。
端末の調達規模もケタ違いに大きい。日本の携帯電話 / スマートフォン業界では、通信キャリアがメーカーから端末を仕入れて(調達)、ユーザーに販売する方式が主流だ。この際にメーカーの業績を左右するのが、「キャリアがどれだけの調達を行うか」である。
複数の関係者によると、今回ツートップに選ばれたGALAXY S4 SC-04EとXperia A SO-04Eに対し、ドコモは100万台前後の調達を行う方針だ。少なくともツートップのうち1機種は、100万台以上の調達になる模様である。一般的には「100万台が売れれば大ヒット」の国内市場において、すでにこれだけの規模の調達が計画されているのは破格のことだ。しかも、年間を通じて最もスマートフォンが売れる春商戦ではなく、夏商戦のモデルでこれほど大規模な調達を行うのは異例である。
特別扱いは広告宣伝やマーケティング、販売の現場でも行われる。前出の加藤薫社長が「どのスマホを買うか決めかねているユーザーにおすすめできるのがこの2機種」と話すとおり、ドコモは大量調達したこの2機種を大々的にプロモーションし、イチオシ製品としてユーザーに勧める。販売価格も安く設定しているため、店頭でも「薦めやすく、売りやすい環境が整っている」のだ。
●ツートップは「最良の選択」か?
「ツートップとして大々的に宣伝されたため、GALAXY、Xperiaのどちらも認知度が上がった感じですね。どちらも『指名買い』が以前よりも増えました。あまりスマートフォンに詳しくないお客様の場合ですと、『ツートップ(GALAXYとXperia)のどちらがお奨めか』というように質問されます」(大手家電量販店 幹部)
鳴り物入りで始まったドコモのツートップ戦略だが、Xperia AとGALAXY S4が出そろった5月最終週の滑り出しは上々。各販売店の声を聞いても、"手応え"はあるようだ。
しかし、その一方で、ツートップ戦略への危惧があるのもまた事実だ。一部の販売店からは「(ツートップとなった)GALAXYとXperiaの初動はいいが、他メーカーの夏モデルの引き合いはむしろ減っている。総需要そのものは変わらず、単に売れ筋が偏るだけで終わるのではないか」という声も聞こえてくる。
さらに今回ツートップとして選ばれた2機種が、本当に今の市場環境やユーザーニーズに合致しているか、という課題もある。
現在、スマートフォンの主な購入者層は「携帯電話からスマートフォンに初めて買い換える一般層」に移ってきている。グローバルなハイエンドモデルよりも、日本のケータイユーザーのニーズをうまく取り入れた"ケータイっぽいスマートフォン"が求められているのだ。そう考えて今夏のラインアップを見渡すと、ツートップとなったSONYのXperia Aに加えて、シャープの「AQUOS Phone Zeta SH-06E」やパナソニック モバイルの「ELUGA P P-03E」も魅力的で今の市場環境に合致している。とりわけAQUOS Phone Zeta は低消費電力・高解像度のIGZO液晶搭載に加えて、端子部分をフタで覆わなくても防水性能を実現するキャップレス防水に対応。製品としての出来栄えは、GALAXY S4やXperia Aよりも日本のケータイユーザーのニーズに合致した優れたスマートフォンとなっている。しかし、同機は「ツートップに選ばれなかった」という一点で、販売現場では不利な扱いをされてしまうのだ。これはもったいないことだと、筆者は思う。
●ドコモの「ツートップ戦略」は、iPhone導入の下地にもなりうる
ドコモは今回のツートップを販売戦略の大きな転機と位置づけており、MNPによる顧客流出を止めるための切り札としている。とりわけドコモの顧客流出の原因になっている“iPhone 5対抗”という意味合いが強い。最初のツートップに、グローバル市場でのAppleのライバルであるサムスンと、国内市場ではAppleに比肩するブランド力を持つソニーを持ってきたのもそのためだろう。ツートップ戦略が、まずはiPhone 5に対抗するための措置であることは間違いない。
その一方で、今回のツートップ戦略は、ドコモがiPhoneを受け入れるための下地にもなる。
Appleは、iPhoneの取り扱いキャリアに対して、「iPhoneを他社製スマートフォンよりも優遇して販売すること」を前提条件としていることで知られる。Appleのブランド力を最大化するために、あらゆる場面で“特別扱い”を求めているのだ。
これまでのドコモであれば、すべてのメーカーを公平に扱うことが建前だったため、この「iPhoneを優遇すること」は受け入れにくい条件であった。だが、今回のツートップ戦略で、ドコモが推すメーカー / モデルは、大手を振って広告宣伝から販売価格まで特別扱いで優遇することができるようになった。そのため近い将来、ドコモがiPhoneを導入することになった時に、今回のツートップ戦略を前例にしてAppleを優遇することが可能になったという見方もできるのだ。
ドコモがiPhoneをいつ取り扱うのか。
その正確な時期は分からない。しかし今回のツートップ戦略の導入を始め、ドコモがiPhoneを取り扱うためのハードルは、次第に低くなってきている。他方でApple側にとっても、ドコモの持つシェアの価値が相対的に上がってきているのは確かだ。2年以内に「その日」が来る可能性は、これまでよりも飛躍的に高まっていると予想している。
月々サポートの割引を最大限受けるためには、24カ月間、同一の機種を使い続ける必要がある。ドコモ版iPhoneを待っているユーザーにとっては、悩ましい状況になってきていると言えそうだ。
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