3月11日に日本を襲った東日本大震災。その際起きた原発事故は、いまだ収拾のメドが立っていないばかりか、放射能汚染の影響はいまや日本中に拡大している。さらに、財政悪化による増税、経済停滞とリストラ、日本社会の閉塞感など、なんとなく日本では生きづらいと感じる人が増えているという。最近『日本を脱出する本』を上梓した安田修氏に、海外移住の動向と簡単にできる方法などを聞いた。
大震災以降、日本人の意識が大きく変化!
先行きの不安から海外に目を向ける人が増加中
日本はいま、過去に経験したことのない危機や試練に直面している。2011年3月に起こった東日本大震災による放射能問題だけでなく、日本の先行きに不安を持つ人も多い。
震災復興のため、巨額の財政支出が避けられない日本は、世界に類を見ないほどの財政悪化国になりかねない。年金財源問題もまったく解消されず、社会保障の切り下げと増税という先行きの暗い話題も絶えない。
若い世代を見れば、日本の雇用環境は悪化の一歩をたどり、正社員になるのも難しい状況。格差社会は是正されるどころか、ますます広がる様相もみせ、それならば、海外で働こうと考える人たちも増えてきている。
このように日本から脱出したい理由は人それぞれ。海外で暮らすといっても、目的によっていろいろな形がある。
では、具体的にどんな日本脱出の形があるのか見てみよう。
震災ショックのケアを目的に
妻と子どもが向かったスイス
まず、幼稚園に通う子どもがいる横浜のTさん(33歳)家族のケース。
近所に住む子どもの友達家族が、遊びに行っていた石巻の実家で大震災に遭遇し、行方不明となった。テレビで流される衝撃映像の影響もあって、一番ショックを受けたのは子どもだった「なんとか環境を変えて、記憶を薄めたい」と考えたTさんの妻(30歳)は、ご主人を横浜に残し、教育環境を考えてスイスへの渡航を5月に実行した。
しばらくして「数日間知り合いの家にお世話になりましたが、いまは子ども好きのスイス人の家庭にホームステイしています。子どももすっかり元気を取り戻したようです」というメールが届いた。
親子共々、すっかりスイスに魅了されてしまったため、90日間の滞在を満了したあと、いったん日本に帰国後、再度スイスに向かうことにしたという。
また、スイスには「現地の受け入れ企業が決まっている35歳未満の人であれば、18ヵ月間の就労滞在を認める」という“ヤングプロフェッショナル制度”があることを知ったTさん。将来、家族揃ってスイスで生活できるように、現地での就職先を探すのに毎日奔走している。
夏はカナダ、秋は日本、
冬はニュージーランドのローテーション
「若いときに海外生活を夢見たものの実現できなかった」と話すFさん(67歳)は年金受給が始まったのを機に、季節ごとに滞在地を移動する生活を始めた。
「どの国にしようか」と悩むことはなかったFさん、その理由は昔の夢を果たせなかったことにある。実は30年以上前に始まった「海外で1年間自由に働ける“ワーキングホリデー”という制度」を知ったときはすでに対象年齢をオーバーしていたからだ。
その悔しさもあって、海外旅行に出かけるときは決まって当時の実施国であるカナダ、ニュージーランド、オーストラリアを選んできた。このため、当初は日本を含めた4カ国にしようと考えていたが、奥さんの「少しあわただしい」という意見も取り入れて、カナダ、ニュージーランド、日本の3ヵ国に決めたという。
移動のスケジュールは、夏は涼しくてベストシーズンとなるカナダのバンクーバー、秋は日本の自宅・福岡で紅葉を満喫、冬は南半球に位置するため日本と季節が逆になるニュージーランド。
もうすでに5年以上もこの“ローテーション”生活を送っている。こうした生活に奥さんも大満足。
移動するたびに環境も変わるため、新鮮さが持続して飽きることがないのが最も魅力的だという。万が一飽きてきても、今度は国を変えてのローテーション生活を続ける計画だ。
自分の趣味が高じて
ベトナムで路地裏カフェのオーナーに
味わい深い“コーヒー”の産地として知られるベトナムで、庶民の憩いの場となっているのが“路地裏カフェ”と呼ばれる簡素な喫茶店。いたるところに店がある密集地域では“看板娘”で集客し、各店それぞれが競争に忙しい。
そのようななか、たまたま世界各国からのバックパッカー旅行者で賑わうベトナム・ホーチミンのフォングーラオ通りに滞在した旅行者のYさん(28歳)は、近くの路地裏カフェにハマってしまったことから、経営のコツなどもいつしか理解するようになった。
出店費用は約10万円、コーヒーは1杯数十円。1カ月の利益は約1万円でも、庶民は1万円で暮らしている。
「100万円あれば10店を経営でき、月の利益は10倍の10万円。日本人がベトナムで生活するには充分な金額」と考えたYさんは、顔なじみとなったカフェの従業員やオーナーからさらに詳しいことを聞き、開業することにした。
しかし初めからオーナーとして出店するにはリスクも高いことから、まずはあまり経営良好とはいえない店と交渉し、“まるごと”の借受料を払ってオーナー代行として営業してみることからスタート。
ノウハウを蓄積したあとは、より物価が安く観光客も多い地方都市に移動して本格的に展開することを目論んでいる。
日本脱出は日本を捨てることではない
個々の幸せ、価値観の問題だ
このように、年齢や海外でやりたいことによって、さまざまなアプローチがある。
この連載では、日本から脱出したいと考えている人に、そのノウハウを伝えていきたいと思う。想像しているよりも日本脱出は難しくないことがわかってもらえるだろう。
日本が大変なこうした時期だけに、日本を脱出することに批判的な人もいるかもしれない。しかし、何が幸せかは人それぞれの価値観次第。自分らしい“生き方”を実現するためには、「誰にも影響されない自分だけの価値観」を作ることが最も必要だろう。
海外に住むということは“生き方”の問題であって、個々の人生の在り方を反映するものでもあるだろう。